先日以下のようなツイートをしたらもう少し書きたくなったので書いてみる。


YAPC::Asia のようなイベントは基本世の中のいろんな人のために存在しているもので「公益性」が高い。こういうものの運営は一般的な営利目的のイベントと違い、かなりの部分がコミュニティの善意の上になりたっています。

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究極的な目的がお金儲けではないので当然こういうイベントでは資金はそこまで潤沢ではありません。活動内容自体もあまりお金儲けに走ると本来喜んでもらうべき相手であるコミュニティの反感を買いますし、一部からは「お金をかけない手作り感がいい」と言われる方もいます。

まぁ言いたいことは わかります。崇高な目的を商業主義に汚されたくないというのは確かに感情としては理解できます。

しかし 自分はこれまでスタッフとして参加したり、主催者として色々やってきたりしてその辺りの「汚い」部分をちゃんと考えられないイベントが持続的に活動を続けていく事は難しいと考えます。 参加者と運営の両方が幸せにイベントをやり終えるためにはそれがたとえコミュニティ活動であってもちゃんとひとつのビジネスとして考える必要があると思います。

ビジネス

自分の考える「ビジネス」とは利益の循環です。誰かが利益を得るから対価を払う。その対価を持って自分のコストと相殺したり、さらなる利益を産んだりする。

そもそも利益を産むには元手等のコストがかかります。コストはお金だけではなく、人的なリソースで代替することもできます。

YAPCのようなコミュニティ関連のイベントは多くの場合人的リソースでコストの大部分を担保することがあるように見受けられますが自分はこれはよくないことだと考えていて、運営者は崇高な目的だけでなく、きちんと地に足の付いたお金をベースとした利の循環を作って参加者・運営・スポンサー全員が幸せになる方法を考えるべきだと考えてYAPCをやってきました。

コスト


お金の事を軽視する人はコストの事を考えない人が多いと思うのでまず真っ先にコストの話をしたいと思います。

YAPC::Asia Tokyo

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まずそもそもYAPC::Asia Tokyoを開催するのにどれくらいのコストがかかるでしょう?
  • 会場費
  • 懇親会費
  • ゲスト招待費
  • パンフレット・案内等印刷費
  • ロゴ・サイト・パンフレット等デザイン費
  • その他弁当・水等飲食費
  • 写真撮影費
  • 機材費
このほかにも細かくあげていったらきりがありません。

YAPCは固定の大口の企業がバックについていないコミュニティイベントとしては異例の大きさですのでただ単純に実際に必要だったコストを並べていっても他のイベントではあまり参考にならないとは思います。イベントの規模が大きくても交渉やツテを頼ることによってコストを圧縮できる可能性も高いでしょう。

しかしそれでも主催者は一円でも多くの資金を回せるようにするべきでしょう。資金が潤沢であれば単純に選択肢が増えます。例えば会場候補にできる場所が増えたり、人的リソースを割く替わりにお金で解決するという手法を取るかどうか決断できたり、懇親会の場所やご飯のグレードを変えられたり・・・。選択肢が多いということは来場者達により良い経験をしてもらいつつも現実との折り合いをつけるための大変大きな武器になります。

逆に言えばお金がなければ選択肢は常に一個の因子によって制限されます:どれだけ安くあがるか、です。近くて便利な会場より、遠くても安いところです。カラーのパンフレットを出すより白黒のペラです。ビールを人数から考えられる予想消費量用意するより、とりあえず乾杯分だけ確保、です。

ボランティアスタッフ

YAPCのようなイベントではかなりの労働力をボランティアスタッフに頼っています。今年はスタッフは諸々含めると50人くらいいました。彼らのほとんどはただ純粋に「楽しいから」「誰かの役に立つから」等の善意で動いてくれています。これは本当にありがたいことで、ぶっちゃけもし彼らに日当を出せとか言われたらどう考えてもコストが跳ね上がることになってにっちもさっちもいかなくなるでしょう。

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そんな状況であるからこそ、主催者としては彼らに「必要以上の苦労をさせない」ために十分な資金を得る必要があると思っています。具体的にいつも考えているのは以下の3点です:
  • 会期中に腹を空かせたスタッフがいてはならない
  • 備品等で(一時的に立て替えてもらうことはあっても)スタッフにお金を出させてはならない
  • 懇親会・打ち上げ等でスタッフに一銭も払わせてはいけない
そもそも僕の期待値がおかしいのかもしれません。が、自分はとてもこれがきになるのです。そして↑の3点がおざなりになってるイベントなども多い気がします。

要は貴重な時間を使ってイベントを手伝ってもらっているスタッフにお金と食事の心配をさせたくないのです。わざわざ働きに来て金銭的報酬もないのに飯も自腹でとかどう考えても最前線で戦ってくれてる皆さんの戦意をそぎます。

イベント開催を考えるときにボランティアスタッフの善意に頼りすぎてはいけないので、必ずこのあたりのコストを考えるようにしています。

利を動かす

ではそのようなコストがかかる事業を回すための資金を一体どのように持ってくるのか。

イベントであればチケット収入なども見込めますが、参加者一人一人に公平にコストを負担してもらうのは実はものすごく大変です。YAPC::Asia Tokyo 2013の例で言えばチケット代金だけでは会場費「だけ」しか出ません。

最初に書いた通りYAPCのような存在理由が営利目的でないイベントはそのような建前がある以上自らの売上げでそれを賄うのは難しく、企業に協賛してもらう以外あまり現実的な選択肢はないと思います。

中には○○という団体のため!と聞いたらぽん、とお金を出してもらえる奇特な企業もあるでしょう。しかしそれではただの施しです。施しでもお金に違いはありませんが、そのような状態ではただでさえ対等でない協賛企業とのパワーバランスがより企業側に傾き、例えば企業の意向がコミュニティの意向と相反したいざという時にこれに対する術がなくなる気がします。

そのバランスを少しでも正しくするためには協賛金に対する対価を返せるようにするしかありません。
協賛企業の利益になる商品を作り、それを気に入ってもらった場合に代償としてお金をいただくわけです。

我々が売れるものは基本的に「露出」だけです。例えばサイトに名前を載せるだけでも露出にはなりますが、それだけでは魅力がありませんし印象が薄くて説得力に欠けます。それを補うために我々は様々な種類の商品を作るわけです。YAPC::Asia Tokyo 2013では以下のような商品がありました:
  • スピーカーの後ろに協賛企業名入りバックボードの配置
  • 幕間CMの放映
  • パンフレットへの広告掲載
  • 協賛企業の話を(強制的に)聞くためのランチセッション
この他にも色々とやりました。それぞれに値段をつけ、営業に行き、ひとつひとつ売りました(ちなみに販売管理はほとんど櫛井さんにやってもらいました。ありがとうございます)。

ここまで来ると段々ビジネスという感じがしてきたかと思います。 コストとリソースの循環が見え始めてきているはずです。

商品を作りそれを売る。このようにビジネスを創造した事により、企業は露出の利を得ます。イベントの運営はお金という利を得ます。運営はその利を使ってコミュニティのためのイベントを運営します。残念ながら企業だけでもまだ少し足りないので参加者からもチケット代という形で利をもらい、さらにそれを使ってイベントの内容を調整しコミュニティのために利を生むようにします。運営は運営で「世界最大のYAPCを運営した」という経験と認識という利を得られます。

このようにお金というリソースと協賛企業をうまく絡ませることによって、価値の交換を行い、それぞれが損を最小限に抑えつつ、皆なんらかのメリットを得てイベントを終えられるようになりました。

規模や目的にもよるのは当然なので一概には言えないですが、YAPCのような形式でボランティアの努力を当てにしたイベントではどんなにうまく運営をしても最後にはボランティアと参加者がちょっとずつしなくて良い損をするのではないかなー、というのが自分の考えです。ボランティアは時間以外の出費を強要されがちですし、参加者はもっと良い会場設備でトークを聞けたかもしれない。お金があればそこはなんとかなるのです。

まとめ

なんかとりとめがなくなってきてしまった。伝えたいことが伝わるか心配ですが・・・

まとめると「運営という立場にたった時には満足感だけを求めてやってはいけない。キチンとコスト、目的、どのようにするとみんなが利益を得られるのかを考え、一つのビジネスとしてまとめる事こそが運営の責任である」ということを伝えたいと思ってこのエントリを書きました。

そしてさらに言えばYAPC::Asia は JPAという団体が後ろにいることによって最終的に利益があがれば翌年にそれを持ち越せるし、損が出たとしてもJPAがある程度は吸収できるのです。JPAは他にもミッションはありますが、法人としてのメリットを最大限にいかしてるのはこの資金面で それを見据えてJPAを作った自分ナイスと我褒めが止まりません。

あ、ちなみに最後に公平さを期するために言うと、僕はそういう考えでYAPCをやってきましたが、イベントの方向性や企画などでイベントの内容をもっとおもしろくしないとおそもそも商品は売れないわけで、そこを売れるようにしてくれたのは他でもない櫛井さんです。本当に助かりました。





以上つらつらと自分が考えるコミュニティイベントとお金の話 でした。