今年のYAPC::Asia Tokyo 2014は海外ゲストの方々と色々話す機会があったのでかなりの時間彼らと話していた。

特にスピーカーの方々とは「日本人に受けるためにはどういうアプローチがいいんだ」という相談をYAPC期間中に(今更!)聞かれて
  • 日本人は証拠として数値の提示を求める傾向があるから、数値をもっと盛り込め」とか
  • おまえらの会社日本だと全然知られてないんだからまずそこから変えろ」とか
等々の助言をして大分彼らのトークの内容を微調整する業務があった。特にDBICのトークは(見てないけど)YAPC::EUでやったものと全く内容が違う、という報告をスピーカー本人にもらった。ははは、通訳の人たちに迷惑かけたかなーw

ともあれ、その流れで海外のYAPCの話。今回話した人たち全員から
  • なんでYAPC::Asiaはこんなに人が集まるんだ?
  • どうしたら俺たちのYAPC(EUにしろNAにしろ)をここまで大盛況にできると思う?
という相談をされて、ずーーーーっとコンサルばりの演説をぶちかましてました。

英語のブログでこの辺りをもっと書いてくれと言われてるんだけど、とりあえず部外者の俺が偉そうな顔で他のイベントの事に関して偉そうな事を書くと一瞬で炎上しそうなので、まず自分の考えをまとめるためにも自分のこの日本語ブログで書き出してみたい。

 
現状認識

まず、僕が人づてに聞いた現状について。当事者から聞いた話もあれば伝聞もあるので、そこはご留意を。

コミュニティの奴隷

ある海外Perlコミュニティの肩書き的には偉い感じの 人がいて、その人はまぁ僕と似た感じでどちらかというとイベントの裏方のさらに裏方をやっているんだけど、その人は世界中のYAPCに行くのになんと自腹でいかされているらしい。日本とは違って毎年違う場所で開催される海外YAPC(例えば今年だったらYAPC::NAがあったオーランド、YAPC::EUがあったソフィア)とかに行くための飛行機代、ホテル代を経費落とせないというのは正直ひどすぎると思った。

同様にイベントの直接のオーガナイザー(去年までの僕+櫛井さん、今年の和田さんの立場の人)達も毎年違う場所で開催することもあって特になんのメリットも享受できない。まぁオーガナイザーはちょっと酔狂な人達なので報酬のためにやっていない部分も多いとは思うが、オーガナイザーがなんの見返りも得られないのであれば、その下の人たちも見返りを得られないわけで、本当にただの無料の労働力の提供者になっているわけだ。

そこに根本の善意があるにせよ、人間は無報酬では働き続ける事はできない。海外のYAPCのオーガナイザー達は口を揃えて僕にこう言う:「YAPCなんて一回やれば、もう二度とやりたくなくなる。(一スタッフの時から8回もやってる)お前はクレイジーだ」

そりゃそうだろうな、と思う、裏方に徹してコミュニティを支えているのに、表彰もされず、経費であるべきところを自腹で切ったり、ねぎらいもないのではもう二度と同じ仕事をしようとは思わないだろう。かろうじて続けて仕事を続けてくれるにしても、そのポジションにメリットがなければ他の人がそのポジションを自分たちがしようとはしないだろう。これは万年的な人的リソースの不足に直結する。

どうも海外YAPCはこのような 崇高な精神のための奴隷制度によって支えられている側面が強いように思われる。人間には見返りが必要なのだ。もちろん、「良い仕事をした」「コミュニティに還元できた」という満足感も見返りのうちだろうが、例えばわざわざ火中の栗を拾って運営をした(特別な事をした)というのならそれなりに現実的な見返りを受け取るべきだろう。

ちなみに見返りを必要としない奉仕は「宗教」であると僕は思っている。僕は宗教は宗教でやってほしい。継続可能なイベントは宗教であってはいけない

ノウハウの非継続性

鶏が先か卵が先か、のような話だけど上記のように海外YAPCおよび その裏方スタッフはものすごく短い期間だけしかそのポジションにいない事が多い。具体的には一回YAPCを経験したスタッフがその次のYAPCを開催することは、まずない。

これはつまりYAPCというイベントの運営母体に継続性がないわけで、それでは良いところも悪いところも過去の経験値を蓄積できない、という事だ。蓄積はできていてもそれは個人レベルの話であって、イベントスタッフという集合体としてはできていない。

また、同時に継続性がないため、将来への投資が難しい。来年自分がやらないとわかっているイベントのためにお金やリソースを割いて先に何かしかけを作っておくという人はそうそういない。しかし将来への投資を行わないと次もまた同じ事を一から始めるしかない。ものすごい非効率だ。

おまえはどうしたいんだ?

今回色々相談を受けて、話を聞いたところで具体的な施策の話をする前に僕はかならず「で、あなたはどんなYAPCにしたいの?」と聞いてみた。答えは… あまりなかった。感じからするとあまり考えてなかったんではなかろうか。

僕がこの数年間培ってきたYAPCの方向性は2年前のこのクロージングトークスライドに書いてある(スライド24-29)。

意訳すると
YAPCはこれから先もずっと
  • 誰よりも懐の深いカンファレンスであるべきである
  • 技術と、技術に対する愛に関して話す場所であるべきである
  • どこでも、誰でも開催できるようになるべきである
  • このすばらしいコミュニティを垣間みる事ができる場所であるべきである
というような事を話した。つまり技術への愛をシェアできる開かれた場所。それが僕の目指してきたYAPCだった。このビジョンがある事によってイベント内容を企画するための全てを逆算する事ができる。

「開かれた場所」にしたいなら「いつものメンツ」にだけリーチしてもしょうがない。スピーカーも観客もさらに広いところから集めなければならない。そのために必要なトーク募集要項だったり、マーケティングの仕方がある。

「技術に対する愛情」を感じられるイベントにするにはやはりこれまたトークの選別の際の基準等の物差しをそれなりに調節する必要がある。また余興的なサイドのイベントの内容も、なんでもいいわけではなくそれなりに厳選する必要がある。

書き出していったらキリがないが、全てはビジョンの元に取捨選択が行われ、イベントの形が浮き上がってくる。ビジョン無しではどんな具体的な施策も意味をなさない。この辺りが海外のYAPCでは欠損しているように思われた。

具体的な施策

以上のような問題点をふまえた上で、じゃあどうするのか、について書こうかと思ったけどもう大分長くなりすぎた。別エントリでまた書くかもしれないが、基本はこれまで書いてきた問題をつぶせばいいだけのような気はしている。

すなわち

  • コミュニティの奴隷を作るな
  • 継続性を持て
  • ビジョンを持て

  • さらに去年も書いた「イベント運営をするものはビジネスを運営しなければならない」も同様に必要な要素だな。

    今度はさらにこれをブラッシュアップしてまとめて英語で書いて、海外コミュニティに叩かれなければならない。憂鬱だ。