大変説明が難しい作品。基本設定は現実世界ではありえない設定なのでサイエンス・フィクションと言っていいのだが、起こっている事件はかなりオーソドックスなクライム・サスペンス。どこがSFかというと重なり合うように存在する二つの都市ベジェルとウル・コーマというものが存在する。二つの年は物理的に非常に近い場所にあるのだが、お互いの市民は相手方の人や建物の存在を「見て」はいけないし、存在を認識してもいけない。ベルリンの壁のような物があるわけでもないのに、この都市の住民達はそれを教育によって「見て」も「見ていない」ようにする。もし正規の手続きを経ずに都市間を越境しようとしたり相手の都市に関わったりするとそれは「ブリーチ行為(breach)」と見なされ、全ての権力を超越したブリーチという集団によって片付けられてしまう。そんな中で起こる殺人事件・・・という長い説明を必要とする設定。

最初は設定を飲み込むのに若干時間がかかるけど話の運びはうまいし、描写も巧み。ラストはちょっと駆け足感があったけど、納得できるものだった。結構おすすめ!